楽しさから生まれるSora Aotaのストイックな姿勢。
物心がつく頃から絵を描いていたひとりの少年。Sora Aotaはこれまでの人生の大半の時間を絵を描いて過ごしてきた。まだ20歳というZ世代でありながら、その実力はグローバルで活躍するアーティストたちから多くの支持を得ている。
「小さな頃からずっと趣味で描いていましたね。ゲームをやったり、漫画を読んだり、アニメも好きだったけど、一番好きなことは絵を描くこと。ただ単純に楽しいんですよね。描きながら、自分でもどんな絵になるのかわからなくて、思いもよらない作品が完成したりする。それを家族や友達に見せて反応をもらえるのがうれしくて、それでとにかく描き続けていました」
絵を描くことは自分にとって大切なコミュニケーションのひとつだったと語るSora Ao-ta。高校生の頃から漠然とそれを職業にしたいと思いはじめたという。
「ゲームが好きだったからTwitterでe-SPORTSのロゴやアイコンのデザインをアップしたんですね。そうしたら企業からコンタクトがあって、それで仕事を受けるようになったんです。だけど、途中であまり楽しくなくなってきたんですね。商業的なものよりも、もっとアートとして自分の作品を描きたいっていう気持ちが強くなって。その頃ですね、自分はもともとヒップホップが好きで、ジャケットのアートワークにもすごく影響を受けていたから、自分で描いたファンアートをSNSにアップしたり、好きなラッパーやアーティストに送ったりしました。そのコミュニケーションが徐々に仕事へと繋がっていったんです」
商業的なデザインよりも、アートとして自分の個性を出したかった。
細かなところまで緻密で、それでいて宇宙のような広がりを見せる彼の作風。そこにTrippie ReddやYoung Thugといった海外のヒップホップアーティストたちからの注目を集めるようになる。
「Trippie ReddがSNSでアートワークを募集していて。それで応募したら採用されたんです。それが大きなきっかけになって、いろんな海外のプロデューサーやデザイナーからDMがくるようになりました。そのうちのひとりにYoung Thugのデザインを担当している人がいて、是非一緒にやろうって連絡がきたんです。実は自分は宇宙っぽさとかあまり意識してないんですけど、描いていると自然とそうなっていくというか。アニメとかゲーム、映画や漫画の影響もあると思うんですけど。宇宙って、すごく自由なんですよね。蝶々とかそういうモチーフを描いても違和感ないし、色もいろんな色が合うというか。幅広く描けるから、すごく楽しいんです。」
そうしてSNSを駆使し、グローバルな舞台へと飛躍していったSora Aota。だが、彼はまだ自分を取りまく環境や自身の実力に対して満足はしていない。
「海外のアーティストって、ひとつのアートワークをつくるのに、いろんなアーティストに声をかけて作品をつくらせて、その中から気に入ったものだけを採用するっていうスタイルなんです。しかも納期が短い案件ばかり。一生懸命描いた作品が不採用になったこともたくさんあって、それがすごく悔しかったですね。だけど、それによって精神的にも実力的にも鍛えられた感覚はあります。オファーのたびに、次はもっといい絵を描いてやろうって思うようになりました」
グローバルでやりとりをすることで精神的にも実力的にも鍛えられた。
Sora Aotaは「去年の自分よりも、いまの自分のほうがいい絵が描けている」と語る。楽しいという気持ちから生まれる向上心に経験値が積み重ねられ、着実に成長へと導いているのだ。
「毎日Pinterestで世界中のいろんな人の作品を見ています。自分の作風とマッチしない作品でも、色使いや影の付けかた、背景とか、すごく細かなところまで見て、参考にできるところは吸収するようにしています。それを自分にインプットしたら、今度はとにかく納得のいくところまで描き込むことを常に心がけてますね。自分の作品の前で人が立ち止まって見てくれる領域までしっかりと。あとは誰の作品だってひと目でわかってもらえるように意識してますね」
現状に満足しないSora Aotaとドクターマーチンの共通点。
絵に対してストイックな姿勢を見せるSora Aota。そうした気持ちはアートという枠だけに留まることはなかった。今年の春に彼は自身のアートワークを落とし込んだブランド〈ARTCHENY〉をスタート。新たな挑戦に挑んでいる。
洋服に落とし込むデザインと、アートとして描く作品は違う。
「外で遊ぶよりはずっと家の中で過ごしていたので、ファッションにはあまり興味なかったんですけど、仕事で東京へ来るようになってから気にするようになりました。基本的にはシンプルな格好が好きですね。人に見てもらうためというよりも、まずは自分の好きなものを着て気分を上げたい。自分のブランドの服もそんな感じで考えています。だけど、洋服のデザインはやっぱり難しいです。服に落とし込むかっこいいデザインと、アートとして描く作品はまったく違うので。でも、これもやっていてすごく楽しいですね」
シンプルなデザインが自分のスタイルにフィットする。
そうしてファッションに対して興味を示す彼も、中学生の頃にドクターマーチンを履いてみたいと思ったことがあるという。
「自分の従兄弟がドクターマーチンのブーツが好きでよく履いていて。当時はまだファッションっていうものを知らなかったけど、おしゃれだなってずっと思っていたんです。でも自分には履きこなす自信がなくて、結局履かずじまいだったんですけど…(苦笑)。だけどアーティストになったいま、ドクターマーチンを履いてみて、すごく履き心地がいいし、やっぱりかっこいいなと思いました。デザインもすごくシンプルだし、自分のスタイルにフィットします」
ドクターマーチンを履く人ってみんなかっこいい。それはスタイルがあるからだと思う。
ドクターマーチンはよく“反骨の象徴”と喩えられる。一方で現状に満足することを拒み、さらなる成長・飛躍を望むSora Aotaのスタイルにもまた、ドクターマーチンのアティチュードと重なるものがあるのではないだろうか。
「中学生の頃に履きたくても履けなかったのは、きっと自分がまだドクターマーチンを履けるほどのスタイルを持っていなかったからだと思うんです。やっぱり履いている人ってみんなかっこいいし、似合っているし、それってスタイルがあるからだと思うんですよ。だけど、もう自分は履けるんだなって改めて思うことができました」
小さな頃から絵を描き続け、たくさんの情熱を注ぐZ世代を代表する表現者、Sora Ao-ta。そして新しい挑戦に対して臆することなく、自分自身をアップデートし続ける彼の姿に多くの人々が惹きつけられる理由を見つけることができた。彼はまだ二十歳。これからやってくる未来において、どんな姿に変貌を遂げ、一体どんな活躍をしているのか、それが楽しみでしょうがない。
「もっともっと活躍したい気持ちがありますし、アートも洋服も、もっとたくさんの人に触れて欲しいです。そしてもっと自由でありたいと思っています。デジタルでずっと描いているから、アナログでも描きたいし、なにより型にはまらずにもっともっと色んな絵を描いていきたいですね」